パトリアエ・マテリアル界に遅れること数万年、プライム・マテリアル界にも集落は出来始めていた。しかし、より精霊界に近いプライムでは精霊力にバラつきがあり、火山活動や、河川の氾濫などが頻繁に起こり、大きな文明の成立には至らなかった。
それでも、次第に不向きな地勢を克服した人類は、小さいながらもいくつかの都市を作り出した。しかし、わずかばかりの肥沃な大地を巡って、これらの都市は戦いを続け、大きな繁栄はもたらされなかった。
都市は、プライム・マテリアルを構成する三つの連なる大陸の西部から中部に多く存在し、東部には未だ殆ど存在し得なかった。 尚、後に、この三つの大陸は、東からアドール、アルカナ、アイーダと名付けられることになる。
後にアイーダ大陸と呼ばれることになる、プライム・マテリアル界の西に位置する地にあった一つの都市が、急速に力をつけ始めた。
伊費と言う優れた政治家の下、その都市クレオは農業改革を進め、その農業力に支えられ大人口を擁するようになり、他の都市を圧倒し、支配下に収めていった。
支配地域が、後のアイーダ大陸全土に広がると、プライム・マテリアル界初の王朝、クレオ朝が誕生した。
しかし、功績が多大な伊費と、他の武官、文官との確執から伊費は次第に疎まれ始め、命の危険を感じた時、参謀として軍部にいた息子、伊意と共にアイーダ大陸の近くにあった島に逃れた。
しかし、数年後、追っ手が島に迫ったとき、伊費は息子を島にあった遺跡に逃し、自らは逃れられぬと知り、住居に火を放って自決した。
その後、クレオ朝は、大陸周辺を制圧し繁栄していった。
遺跡に逃れた伊意は、遺跡内での生活の場を探索中に誤って遺跡内にあった縦穴に落ちてしまった。 彼が誤って落ちたところは、神々により作られたアリアールの大迷宮であった。 神々は、この迷宮を作るにあたり、魔界の生物が物質界に来られぬよう苦心したのに対し、上下物質界を隔てる部分はそれほど考慮せず、迷宮というよりは、いくつかのブロックに分けられた巨大な道を作っただけであった。
誤って迷宮に足を踏み入れた伊意は、彼自身の幸運と、精霊力を操る力で、飄々とパトリアエ・マテリアル界に、たどり着いてしまった。
こうして、プライム・マテリアル界(下位物質界)の住人として初めて伊意は、パトリアエ・マテリアル界(上位物質界)に足を踏み入れた。